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──Welcome to EDEN.
Here is the world warping common senses, ethics, moralities and all.
You would be able to feel how ambiguous the definition of saying "Paradise".
It is "ASTONISHMENT" to know all.──

「すずか……?」
少女が最初に見たのは、真っ白な天井だった。
その次が、親の顔。この世の終りみたいな顔をしていて、それと喜びが複雑に入り混じって、混乱に包まれた顔をしている。
やがて意識が夢から現つに向かうにつれ、下腹部と内股に鈍い痛みが走った。
さっきまで麻痺していたのが、急に復活したような、打撲と裂傷とを併せた激痛に変わっていく。
少女は、どうして親がさめざめと泣いているのか、
さっきまで一緒だった――気がする――親友がいないのか、訝しがった。
ぼーっとしたまま、しばらくベッドに寝続ける。
知らないベッドだったが、やがて医者が来て診察をしていったところから考えて、病院なんだろうと考えた。
頭ははっきりしているが、何か凄く大切な、しかも直近の記憶を忘れている。明らかに、記憶喪失のそれだった。
やがて夕方になり、夢の終りで呟いた通りの親友が病室に駆け込んできた。
せっかくの顔がぐしゃぐしゃになるほど泣きじゃくっていて、父といい、一体何事なのかと思った。
「ごめんなさい、ごめんなさい……アリサちゃん、もっと、私が、気を付けていれば……
どうしてあの時、もっと素直になれなかったんだろう……
許してなんて、言わない……殺すなら殺して……ごめんなさい……」

殺すだなんて、物騒な。そんな気違いじみた――
「あっ……」
彼女の、およそストレスでばらばらになり艶の失われた髪と、懺悔にも近い声、
そして何より、哀しみの涙が自分自身に重なって、
「うっ……ぷふっ……おぇっ、うぇぇっ、げぇっ……」
シーツに大量の胃液と胆汁をぶち撒けた。何も食べていないから、液体しか出てこない。
ナースコールで看護婦が飛んでくるまで、いつまでもそこで吐き続けた。
誰が背中をさすってくれているのか、それさえも混濁した意識の中では分からない。
アリサ・バニングスは思い出した――自分が汚れてしまったことに。
「いやっ……いや、いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

***

「ねえ、すずか。インターネットの噂、知ってる?」
「え?」
アリサは不意に聞いた。
なのはとすずか、それからフェイトやはやてといういつものメンバーで弁当をつついていた時のこと。
「何を?」
主語が抜けて首を傾げているすずかに、アリサは続ける。
それは、肌寒く乾いた冷たい風が吹く季節に、いささか不釣り合いな話。
「都市伝説なんだけどね、『インターネットで人を呪う』って話」
真っ先に震えだしたのはなのはだった。顔は笑っているが、同じくらい膝も笑っている。
深呼吸を一つおいて、アリサはおどろおどろしく話し始めた。
「詳しいことはあたしにも分からないんだけどね、こんな噂が出回ってるのよ」
白の映える肌で幽霊の手真似をすると、いかにも本物らしくて、
なのはは引きつった笑いを浮かべながら、ぷいと横を向いた。
できれば鮮血に染った紅いワンピースとかがあれば、もっと雰囲気が出たかも知れない。が、ないものねだりはいけない。
コホンと大げさに咳払いをして、都市伝説の内容を語る。
『1.検索エンジンでは出てこない。
2.そのサイトは聖書の名前。
3.そこを見たら人生が終わる』
はやては「そんなもんあらへん、ある訳ないやんか」とカラカラ笑い、
すずかは少しばかり神妙な顔になって黙り込み、そしてフェイトは涙目のなのはをずっと介抱していた。
「あ、なのはゴメン。少しおどかしすぎちゃった?」
一旦話は打ち切られ、全員がまた弁当に箸を戻した。
何故か、フェイトだけは「アリサ、ありがとう」とお礼を言われた。

放課後、帰る前に校庭で、アリサとすずかはその片隅でブランコを漕いでいた。
太陽は少しずつ長くなっていくものの、まだまだ日は短い。
夕方の淡く紅い光が、二人の顔を照らしていた。
「ねぇ、アリサちゃん」
ブランコを力強く前に出しながら、すずかが呟く。
軽く聞き返しながら、アリサも足に力を込めた。
「あの話、私も聞いたことあるよ。でも興味本位で調べると何か悪いことが起きる気がしたから、結局見なかったけど」
アリサの心臓が、不可思議に跳ねた。
すずかはこう、野性の勘というか、いろんなものを察知する力が強い。
苦笑いを浮かべて、アリサは答える。
「いや、あたしの場合は探しても見つからなかっただけなんだけどね、ハハハ……」
よっ、とブランコから飛び上がり、足を一歩出しつつも着地する。
一方すずかは、それを見て思い切り漕ぎ、立ち上がったかと思うとジャンプして、クルリと一回転してから綺麗に着地した。
間違いなく、大会なら10点満点だ。
「や、やるわね……」
笑顔でVサインを浮かべる親友の姿に、アリサの心臓はドキリとまた跳ねた。

教室に戻ると、誰かが開け放した窓から風が吹き込んできて、アリサのスカートをはためかせた。
竿から落ちかけている雑巾を横目で流しながら、自分の机に行って鞄を取り上げ……また風が吹いた。
「あっ……!!」
目に何か入り、少し慌てたせいで、身体のバランスを崩した。
世界が見えないせいで上体の戻し方が分からず、また鞄を掴んだ手が何故か離れず、
そして身体を捻っても重心が戻らなくて、アリサは思い切り顔から床へと突っ込んでいった。

柔らかい。
最初にアリサが感じたのは、布地の心地よい触りと、ラベンダーのような鼻をくすぐる香り。
いつまでもこうしていたい、そんな思いは、その布地がもぞもぞと動き出したことで掻き消えた。
どうやら、すずかの身体だったようだ。恥ずかしさに顔が紅潮すると同時に、巻き込んでしまって申し訳なく思う。
まだ、目に入ったゴミが取れない。
立ち上がろうと、手探りで床に手をつけようとあちこちをぺたぺたやっていたら、
さっきよりももっと柔らかい部分に触れた。感触から考えて、ブラはまだ着けていない。
時が止まり、心臓の鼓動がより強くなった。
トク、トク、トク。意識が脈動する血流に集まって、頭に靄がかかる。
「あの、アリサちゃん……」
すずかの声は、戸惑いというよりも、湿り気を帯びたそれだった。
そう信じたかった、と言えばそう聞こえるかもしれない。
けれど、アリサは、この風の悪戯が何かの引き金ではないのかと、
赤い糸が縒り合わされて一つになるのではないのかと、そんな幻想が頭を掠めた。
その時ふっと、すずかの手が頬に当たった。
「アリサちゃん、目にゴミが入ったんでしょ? どっちの目?」
「ひ、左……」
「じゃ、アリサちゃんそのまま頭下げて」
何事が始まるのかと思いきや、頬を撫でていた指先が上下の目蓋を捉えた。
言われた通りにすると、そのまま押し開かれ、すずかの唇が迫ってきた。
「ちょ、すずか、アンタ何やって……」
「動かないで、アリサちゃん」
その一言でぴたりと静止し、すずかを見守る。
――ぺろ。
「わひゃぁっ!?」
本気でびっくりしたのには責められるべきではないと思う。
取れたゴミをテイッシュに吐き出している間、アリサは呆然として親友の姿を見つめていた。
「あ、ありがとう」
「ううん、どういたしまして」
「ところで今の……何? 月村家ではよくあることなの?」
すずかへのモヤモヤした気持ちよりも、驚きが勝っている。
本人は疑問をあらわにして、首を縦に振った。
「うちではやるんだけど、うーん、変だった?」
「え、あ、いや、そんなことないわよ?」
言い切られてしまった。だが、それも仕方ない。
心が沈静に向かうのかと思いきや、冷静になればなるほど、先程の熱が勢いを取り戻してきた。
最初に出会った時から、ゆっくりと何年もかけて染み渡ってきた恋慕と愛情が、今顔に出てきた。

世界から音が消えた。二人、見つめ合って、すずか以外の全てが目に入らなくなる。
顔が真っ赤になっているのが、自分で分かる。
息も上がってくるのを必死に堪えているのに、身体も心も言うことを聞いてくれない。
「あ、あのさ、すずか。あたし、すずかに言いたいことがあるんだけど……」
おずおずと、アリサから切り出す。
口から心臓が飛び出してきそうなほど緊張が高まって、粘膜が残らずカラカラに乾いた。
「う、うん。実は、私もなんだけど……、同じことだと、いいね」
鼓動が早すぎる。破裂しそうだ。
高鳴る緊張を押さえようと、軽く足を振ったが、それがまたもつれかけて一歩を踏み出してしまった。
すずかの顔が目の前にある。今まででこんなに意識してすずかの顔を見たのは、初めてではないか?
長くサラサラで、綺麗な髪。丸く済んだ、深い色の瞳。紅く染まった頬。柔らかそうな唇。
それらの何もかもが愛しくて、思わず押し倒したくなる衝動が襲ってきた。
が、鋼の精神で耐え抜く。いつまで持つか分からない張り詰めた時間の中で、すずかはそっと目を閉じた。
ごくりと生唾を飲み込んだアリサは、その小さく突き出された唇へと、自らの口を寄せ――

「わぁーっ!!」
突然轟いてきた叫びに、二人はパッと身体を離した。
ぜぇぜぇと肩で息をして、叫びの聞こえてきた方向を見る。
はっきりと耳に響いた辺り、教室の中としか考えられなかった。
「フェイト、こんなとこで何やってんのよ?」
ものの見事に引っくり返って顔面スライディングを決め込んだフェイトがいた。
スカートも、これまた見事にめくれて真っ白なショーツが曝け出されている。
「ふぇ? あ、アリサ。教室に忘れ物しちゃって、それで取りに戻ったら……」
「……はぁ。取り敢えずアンタ、パンツ見えてるわよ」
「え、え!?」
教室の入り口に、風で落ちた雑巾が転がっていた。さっきギリギリで引っ掛かっていたものだろう。
フェイトが気付かずにそれを踏ん付けてしまったのは、火を見るよりも明らかだった。
立ち上がって埃を払い、しきりに後ろを気にするフェイト。
「あたしたち以外誰もいないわよ、安心しなさい」
男子に見られたのではないかと心配しているのかと思いきや、全然違った。
というかもう、斜め上の発想をご教授頂いた。
「いや、なのはいなかったなぁ、って」
「ああ、そう……」
これはアレだ、なのはに痴漢プレイされたら凄いことになるタイプだ。
頭が痛くなったアリサはフェイトに別れを告げると、いつの間にやら落としていた鞄を拾って教室を出た。
すずかは恥ずかしそうに、後ろからぴょこぴょこ着いてきた。

「あー、えっと、あの、すずか?」
「……何?」
ワンテンポ遅れて、すずかが聞き返す。もう、二人の家路には別れ道だった。
落ち着くのよ、アリサ・バニングス。クールになれ、素数を数えるの。
でも2からじゃすぐ終るわね、じゃあ1000から行きましょう。1009、1013、1019、1021、1031……
うん、大丈夫。よし、言おう。言おう──
「あ、あたしたちってさ、『親友』よね?」
一瞬、すずかの顔に陰りが差したのを、アリサは見逃さなかった。
ただ、自分自身の顔がすずか以上に陰っているなどとは、悲しいかな、気付くことはなかった。
「そう、だね。親友。誰よりも大好きな、『友達』」
ちくちくと、針がどこからか刺さる。何本も何本も、アリサに傷をつけようと続ける。
その正体は分かり切っていたのに、今更どうすることもできなかった。
涙が出そうになるのを堪え、アリサは精一杯の笑いを見せた。
「改めて……てのも変だけど、これからもよろしくね、すずか」
「うん! よろしくね、アリサちゃん」
互いに握手を交わして、二人は別れた。
道すがら、アリサは誰にも聞こえないように、ぽつりと呟いた。
「すすがに、二つも嘘ついちゃったな……」
家に帰り、部屋に戻ってパソコンを立ち上げると、数日前に見つけたホームページにアクセスした。
その末尾は、どこの国かも分からない、不思議なアドレスだった。
トップページには、ヨハネの黙示録を引用した文章に、テキストボックスがぽつんと一つ。
「メンバー以外はguestと入れて下さい」と書かれていたから何度か入力してみたものの、
『ただ今調整中』とか何とか、いつまで経っても復旧の目処が立たない。
「『EDEN』……聖書の名前とはちょっと違うけど、間違いなくここよね」
呪われたサイトと目される場所を見つけたが、特に面白いものなどなかった。
以前、どこぞのサイトで午前零時に殺したい人の名前を書くと実際に地獄へ送ってくれるというのもあったが、
結局最後まで身近な人間に見つけた者はいなかった。
大体、だ。魔法なら目と鼻の先に何人もいるが、
インターネットという科学の結晶から呪いという非科学的な代物など、土台出てくる訳がない。
アリサはあっけない結末に嘆息し、電源を落としてベッドに転がった。
すると、さっきの一瞬といい、この都市伝説といい、すずかに嘘を吐いたという悲しい事実が胸を貫いた。
後者はまだいい。何となく、すずかの勘が胸に響いて、言い出せなくなってしまっただけだ。
問題は……大好きな人に、想いを伝えられなかったこと。好きな人に、好きだと言えなかった……
あの時、すずかも何かを言おうとしていた。「同じことだといいね」と。
もし、本当に、同じことだったとしたら、世界中の神様に感謝できるだろう。
もしそうじゃなかったとしたら、一方的に好意を寄せているだけで、すずかは誰か他の人が好きだったのだとしたら……
脳裏にネガティヴな妄想ばかりが広がって、涙が出てくる。
枕に顔を埋めて、声を潜めて泣いていたら、鮫島が食事の用意を終えたらしく、起こしに来た。
涙を拭って立ち上がると、「今行くから、先に行ってて」と言い残し、顔を洗いに洗面所へと向かった。

***

次の日は曇り。ぐずぐずで、雨が降りそうで降らなくて、降るならさっさと降れと叫びたくなるような空だった。
すずかへどんな顔をしたらいいか分からず、かといって日常を崩す訳にもいかず、今日も今日とて学校で過ごした。
意図的に目を合わせなかったし、話しかけもしなかった。
向こうも特段話す要件はないのか、何も話しかけてこなかった。
ヤマアラシのジレンマ──本当はもっと近くにいたいのに、もっと触れ合いたいのに、それができない。
もどかしさに壁を殴りつけたくなるような衝動を押さえて、放課後を待った。
帰りのホームルームが終るなり鞄を取って、下駄箱にダッシュする。
靴を履き替えると、もう誰とも会話をしたくなくなった。
明日の、土曜日の朝に帰ってくると電話してくれた父にも、きっと校門前で待っていてくれるだろう鮫島にも。
「ああ、鮫島? 悪いんだけど、あたし急用ができちゃったから。先に帰ってて。うん、うん、気をつけるね。それじゃ」
携帯で執事に電話をすると、くるりと校舎裏の方へ走っていった。
普段まったく使わない裏道を使って、なるべく遅く、遠くまで寄り道をして帰ろうと思った。
その間に思考を整理して、すずかへの秘めた想いをどうするべきか、結論をつけるのだ。
……それが悲劇の始まりだった。
「んっ!?」
裏門を出て右に曲がった直後、後ろから誰かの手が伸びてきて、ハンカチで口を塞がれた。
それはあまりにも突然のことで、抵抗するとか、悲鳴を上げるとか、そんなことの前に、まず頭が硬直した。
相手が何もしない。刺激しないようにゆっくり息を吸うと、急に眠気が襲ってきた。
「何よ……これっ……」
意識にシャッターが降りるのは早かった。身体に力が入らず、アリサはいつの間にか眠っていた。

次に目が覚めた時、最初に感じたのは視覚の異変だった。
目が見えない。どうやら、アイマスクをさせられているようだ。
耳にはヘッドフォンが掛かっている。だが、そこからは何の音も聞こえてこない。
その代り、ドアの向こうと呼べる空間で、何かの機械が鈍い駆動音を立てていた。
身体も変だ。フローリングに転がっているようで、変な姿勢が続いていたためか、節々が痛い。
極めつけは、後ろ手に嵌められた手錠だ。ガチャガチャと動かしてみるが、一向に外れない。
誰かの話し声が聞こえる。怒鳴りつけると、彼だか彼女だか、一人がアリサの前に来たようだ。
「ちょっと、これ何よ! 身代金ならパパが払うから、さっさと離しなさいよ!!」
実は一度、似たような理由で連れ去られたことがあった。
その時は、手荒なことは何もされず、身代金が支払われるなりさっさと解放されて、それっきりだった。
犯人は捕まっていないが、ビジネスの誘拐というのは本当にあるのだと、身を以って知った一件だった。
だが、目の前にいるらしい人物は何も言わない。その代り、ジジジ……と金属の噛み合う音が聞こえた。
ジャケットでも脱いでいるのかと思ったが、次の瞬間、ヘッドフォンに強烈で鋭い声が響いた。
よくあるボイスチェンジャーの、くぐもった男声だ。
「歯を立てたら殺す」
刹那、何かゴロゴロとしたものが口に入ってきた。臭くて、苦くて、熱くて、アリサは急に吐き気を覚えて咽せこんだ。
だが、何者かはアリサの頭をがっちりと抑えつけ、苦しそうにもがき、
えずきに喘ぐのも構わず、乱暴にその棒を口の奥へと挿し込まれていく。
グニグニした、気持ち悪い弾性。しかもそれは口内で膨張し、ますます呼吸が苦しくなる。
『これ、まさか、男の人の……』
気付いた時には、もう何もかも遅かった。
突き出たエラ、勃起したことで後退した皮、脈を打つ肉竿、裏側に張っている筋。
そして何より、最悪の臭気を放っている、ペースト状の何か。
汚れたモノを口の奥に入れられたことで、一度目とは比べものにならない吐き気が襲ってきた。
胃の中がぐるぐると蠢いて、中身を全部ぶちまけたいと警告している。
慣れか何か、一瞬吐き気が引いた――が、同時に血の気も猛烈な勢いで引いていった。
脳に血が回らなくなり、急性の貧血がアリサの気を遠くする。
気付いてはいけない事実に気付いてしまった。
唇が、舌が、歯が、粘膜が、喉が、ヘドロを口に突っ込まされた時よりも暗く燃え上がった。
……すずかとのファーストキスだって、まだだったのに。
それなのに、こんな気持ち悪い、汚れた肉塊に、『はじめて』を奪われるなんて……

少女の心はあっけなく真っ二つに折れた。がくりと意識にシャッターが降りた拍子に、口が閉じる。
「ってぇ!」
男の絶叫が耳に届き、続いて頬に強烈な打撃。
白く熱いスパークが散って、頭が鋭く痛む。熱の感覚は白い肌にも一閃走り、更に鋭い痛みが走る。
腕にカッターナイフが当てられたと知ったのは、彼らの会話からだけだった。
誰かが耳元にやって来て、ぼそりと呟く。ドスの利いた、静かでしかし怒らせたら最後の緊張を孕んでいる。
ボイスチェンジャーを使ったら却ってその凄味が消えてしまいそうな、怒気を含むいらついた声。
「次はない。覚えておいた方が身の為だぞ」
アリサの身体は竦み上がった。原始的な恐怖に縮んだ胃が悲鳴を上げる。
口に容赦なく殴り込まれてくる、見たこともない男の肉棒。それどころか、まだ顔すらも分からない。
暴力的な抽送は和らいだものの、その代わりアリサに求めるものがあるような動きだった。
視界を閉ざされたが故に、その微妙な意図を掴み取れた。最悪を通り越して声も出ない。
舌を出して、つるつるとした亀頭を舐める。
おぞましい臭気が口の中いっぱいに広がり、我慢できない。だが……次はない。
ヘッドフォン越しに聞こえてきた、本気そのものの声は、アリサの勇気を挫けさせるのには十分だった。
ぺろぺろと舐め続けるその頭上で、男が舌打ちをするのが聞こえた。
手を拘束された状態では立ち上がることもできず、仔犬がミルクをぴちゃぴちゃぺちゃ舐めるかのように、
惨めな格好で男の怒張に奉仕する。
「もっと口を使え。吸ったり、扱いたりするんだ」
無機質な変質音が耳を駆け抜け、アリサは一心不乱になって肉棒に愛撫を加えた。
大丈夫。すぐに解放してくれる。根拠のない希望に縋ることしかできないが、それでも失いたくなかった。
同時に、身を引き裂く後悔が精神を蝕んでいく。
あの時、雑巾一枚を気に掛けていたら、すずかに『親友』だなんて言わなかったら。
そして、まっすぐ鮫島のところに帰っていたら……
甘い妄想が、意識を侵した。すずかと初めてのキスを交わして、裸になって、一番大事な純潔を捧げて、
すずかの恥ずかしいところに口づけたり、舐めたり、じろじろ見てやったり……
キスの嵐は唇だけではない。
甘酸っぱい首筋にも、まだまだ平らな胸にも、その頂きの蕾にも、背中にも、太ももにも、すずかの総てを愛したい。
顔を真っ赤にしたすずかが「やめて」なんて弱々しい声を上げても、許してあげないのだ。
ぐちゃぐちゃになるまで互いに蕩けあって、翠屋のケーキよりも甘いひと時を味わうのだ。
そう、すずかの秘所から溢れ出る、禁断のスープさえも。

――それが、どうだ。
「んむっ、んんーっ、んっ!」
すずかの蜜どころか、好きでもない男のペニスをくわえさせられている。
一番に好きな人、誰よりも大好きな女の子、総てを愛したい少女に捧げたかったファーストキスは、無惨にも奪われてしまった。
しかも、それに絶望する時間さえ与えられてはいない。
何もかもが狂った歯車は軋みに悲鳴を上げ、口内は汚辱で嗚咽を漏らしそうになる。
赤子がミルクを飲むかのように、ちゅうちゅうと先端の鈴口を吸う。
命令されるがままに、唇を窄めて前後にストロークし、肉竿に刺激を与える。
その先に待っているのが何なのかを知るのは、まさにその直後だった。
まさか、この後、この肉棒からは……
「そろそろ出すぞ。絶対に吐き出すなよ」
脈動を打ち始めた怒張に、アリサは底無き恐怖の沼へと引き込まれた。
視界なんて最初から閉ざされているはずなのに、ぎゅっと目を瞑って耐える。
じゅぷじゅぷ、じゅるじゅる。粘液が音を立て、唇にまとわり付いた後、顎へと伝っていく。
今までになく強い吐き気を催す臭液が、先端から零れ落ちてきた。
息が苦しくて思わず飲み下してしまったが、その時に感じた
アンモニアか何かを直接胃に流し込まれたかのように強烈な臭いが、アリサの鼻を強かに打った。
「ふーっ、ふーっ、ふーっ……」
口の中に収まりきらず、かといって飲みたくもない先走りの粘液を、少しずつ喉の奥へと押し込まれていった。
肉棒が何度も舌の粘膜を擦って、その度に男が愉悦の声を漏らす。
一際大きく膨れ上がったのを感じたが、吐き出すことも、噛み切ることもかなわない。
身体のどこにも力が入らなくて、閉ざされた視界の先にある、
グロテスクな代物にまつわる様々な妄想が脳髄へと突き刺さる。
未来に待つ黒々としたビジョンが、次から次へと泡沫のように浮かんでは消える。
果てのない後悔が終る時を待ち侘びて、しかしそれは叶わなかった。
一瞬、喉まで押し広げんとしていた肉棒が引かれた。
安心するのも束の間、亀頭が膨らんだかと思うと……爆ぜた。
「んぐっ、んんっ、んんー!!」
突如として、耐えられないほどの臭気を帯びた樹液が鈴口から噴火し、口の中に流れ込んできた。
今一度、全てを強調するように、男は言った。
『吐き出すな。飲み込むな。口の中に溜めろ』
舌先に打ち付けられる、どろどろに煮えたぎる灼熱の粘液。信じられない苦みに、有り得ない生臭さ。
汚された。穢された。
口内に注ぎ込まれていくのは、紛うことなく、精液だ。
大好きな人と交わすはずだった神聖な誓いは、粉々に砕け散った。
今更になって、絶望が身体に、精神に、そして口腔に染み渡ってきた。
不味さを極めた気持ち悪い粘液を、舌の届かぬ所に押し込む。
やがて、怒張が萎え始め、少し残った精液がダマになって鈴口に滴り、
男はそれをアリサの舌に擦り付けると、肉棒を口から引き抜いていった。
ちゅぽん。水温と共に、唇へとまた白濁まみれの肉竿を押しつけられる。
……気の遠くなりそうな凌辱がようやく終った。
後はもうこれだけと、安堵に一瞬の安心を見せると、変質された警告の声が耳に届いた。
「まだ飲み込むな。口の中に溜めていろ。そのまま、舌で掻き回せ」
アリサは我が耳を疑った。こんなものを口に入れたまま、地獄の時を徒に長引かせようというのか。
躊躇っていると、首筋に冷たいものが宛われた。
何かがおかしいと、口を真一文字に閉じて正解だった。
バチッと、電気の走る音がした。
「んんんんんーっ!!」
冷たいものはスタンガンだった。出力はきっと最低だろう、何か不都合なことがある度、電圧を上げてくるに違いない。
アリサは諦めて、口の中で汚汁を転がし始めた。くちゅくちゅと、顎や頬の骨から精を掻き回す嫌な音が鼓膜に届く。
舌全体に、白濁が馴染んできた。本当なら、最初にアリサの口に入るのはすずかの唾液だったはず……
なのに、『はじめて』が何でこんな、汚い精液なの……?
こんな夢みたいな誘拐をされて、大事な、大切なものを奪っていかれてしまった。
『もういいぞ。顔を上げて、口を開けろ』
たっぷり一分も経っただろうか、命令が無慈悲に届く。
鼻から抜けていく、本当なら今すぐ吐き出してしまいそうな臭い。
アリサはふるふる震えながら、命令を忠実に実行した。
地べたに這いつくばった、今までになく屈辱的な格好で、顔を上げる。
『そうだ、それでいい』
口を開くと、シャッターが切られる音がこれでもかと露骨に響いた。
顔の青ざめる心地がしたが、彼らはそれでも止めてくれない。
『お前の口に溜まってるものが何なのか、答えてみろ』
「そ……そんな……」
『嫌なら別に構わないが』
バチッ!
「ぎゃあああああああっ!!」
白濁を零さないように、という意識が真っ先に働いた。続いて、頭を抉る痛みと混沌。
意識がリセットされてしまったようで、ぐるぐると不定形の白いアメーバがゆっくりと目の奥で這い回る。
『もう一度聞く。それは何だ?』
恐怖に張り付けられ、身動きが取れなくなったアリサは、やがてぽつりと答えた。
なるべくなら一生言いたくなかった単語だが、言わざるを得ない。
「せ……精液、です」
『聞こえないな?』
「せっ、精液です!!」
『説明してみろ。それは何をした時に、どうやって出てきた?』
アリサは、やたら無意味な脅迫に思えて仕方がなかった。こんなことをして、一体何になるのだろう。
が、今はそんなことは関係ない。
今はただ、従わねばならぬという従順な恐慌によってのみ縛り付けられている。
命令に忠実であれば、少なくとも痛いことは何もされないのだ。
「お、おちんちんを舐めたら、先端から、ぴゅって出て、来ました」
溢れた涙を拭うこともできず、アイマスクの生地に吸い込まれていった。
三回も四回も、カメラに痴態を収められると、また命令が下った。
「飲んでいいぞ」
まるでおねだりをしていたところを許可してやったかのような、人を小馬鹿にした言い方。
でも、その「許可」に逆らったら何が起こるか分からない。
火花の散る音がした。すぐ近くでスタンガンが鳴っているのだ。
アリサは覚悟を決めると、汚濁をもう一度口の奥に押し込み、できるだけ早く嚥下した。
胃液が逆流してきそうだったが、ギリギリのところで耐え抜く。
ようやく終った――アリサがそう思ったのも、無理はない。
おもむろに、尻へと手が伸びてきた。
着やすく動きやすい冬制服の厚い生地を、無骨な手が撫で回す。
貞操の危機を感じたアリサは狂乱に叫びを上げたが、
更に出力を上げたスタンガンの一撃で、またも床に身体を投げ出した。
「やめっ、やめてぇっ、お願い、何でもするからぁ……助けてぇ……」
必死の懇願は、自然と哀れみを誘う声になったが、今度は男たちは無言になった。
スタンガンや鉄拳どころか、うんともすんとも言わない。
「……っねえ! お願い! 誰か答えて!! 助けて、何でもするから、助けてよぉ……すずかぁ……」
口に残っていた白濁が、唇を伝って顎まで垂れる。また一つ、身体が汚れてしまった。
尻を撫でていた手は一人から二人へ、二人から三人へ、更には胸にも、足にも、次々に手が伸びてくる。
「い……いやぁっ、許してっ、あたしが何をしたっていうの……? お願い、止めてぇっ」
制服の襟口から腕が差し入れられ、胸元をまさぐってくる。
ブラジャーなどまだしていない、フラットな胸の先端。小さく色付く蕾を、くにくにと摘み上げられた。
「ひうっ!?」
何度か、いや何度も、すずかを想って自らを慰めていた。その時に感じた甘い刺激は、今はない。
ただひたすら気持ちが悪いだけの、痛みに溢れる愛撫だった。
それどころか、自分達が満足するためだけの、自分勝手なものだった。
下半身をずっと弄っていた指がアリサのスカートを捲り上げると、ショーツに手を掛けた。
あらん限りの声で叫び、足をじたばたさせて抵抗すると、首筋に嫌な感覚を覚えた。
スタンガンが炸裂し、全身が痙攣する。力を失った身体から、するりとショーツが引き抜かれていった。
「い、いや……お願い、助けて……そこだけは……ダメ……」
男たちが柔肌を焦らすようにまさぐり、程なくして秘裂に指を触れる。
身を捩って逃げようともがいたが、ぐいと足首を押さえられた。
そのまま、俯せになって押し倒される。
肩口にも腕が押し当てられ、身動きが取れなくなってしまった。
所詮、アリサの力は束になった男たちに敵う訳がない。少しずつ内股を開かれていく感覚は、最悪の未来を予見させた。
手錠で繋がれた手のひらに、肉棒が当てられる。無理矢理に握り込まされ、扱かされる。
じんわりと滲み出る粘液が、白い手を濡らしていった。
「やっ、あっ……嘘っ! やめ、やめてぇっ!!」
誰かの舌が、アリサの秘唇にむしゃぶりついた。二次性徴の見えぬ無毛の恥丘に、蜜を絞りだそうと舌が蠢く。
ナメクジが肌を濡らしながら肌の上を動き回っているかのよう。
舌先は蜜壺の最も浅いところに侵入し、思い返したようにすぐ引き抜いて、
今度は度重なる性感で、意志に反して主張を始めていたクリトリスをねぶられる。
「あひぁっ……」
全然気持ちよくない。自分で触った方が百万倍マシだ。
すずかにこそ舐められたかった秘豆を、今見知らぬ舌が這いずり回っている。
鳥肌の立つ身体を震わせていると、足首にかかっていた力が緩み、
そうかと思った瞬間、次は下半身を持ち上げられた。
「なっ、何するの!? 止めて、止めてよぉっ、止めてったらぁ!!」
男たちは気持ち悪いくらい無言のまま、アリサの身体を弄び続けている。
その中の一人が、いきり立った怒張をアリサの秘裂に押しつけた。
狂乱の哀願を繰り返したが、一人として答える者はいない。
「お、お願い……そこだけはっ、そこだけは──いやあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
願い虚しく、祈り届かず、処女を貫かれた。
太さも長さもありえないモノが、アリサが一番大切にしていた純潔を奪った。
すずかに捧げ、永遠の愛を誓うべきだったもの。
すずか以外のどんなに人間にも差し出すはずのない、最も神聖な「初めて」を、アリサは一瞬にして失った。
血は出ているのか、股が裂けているのか、見れば分かる簡単なことも、アイマスクの向こうからでは想像するしかない。
処女膜を突き破る激痛と、何も受け入れたことのない膣中を抉られる激痛は、意識を拭い去るのには十分だった。
だが、失神していることすらも許されない。すぐに男の抽送が始まり、少女の身体は欲望のままに嬲られる。
「い、いや……嘘……許して……許してよ……あたしの初めて……返してよぉ……」
もはや泣き叫ぶこともできず、絶望に打ちひしがれて力が急速に抜けていく。
痛みもそのせいで消え失せたのか、硬いペニスが横隔膜を突き上げているというのに、もう何も感じない。
アイマスクに、涙が滲む。一滴二滴だったそれは滂沱と流れ、止まるところを知らない。
精神が摩り替わったように、現状が別人に起きた悲劇だと考えてしまう自分がどこかにいた。
これは夢。悪い夢。何もかもが間違っている。絶対にこんなこと、ある訳がない……
「すずか、すずか、すずかぁ……助けて、助けてぇ……」
何度も愛する人の名前を呟きながら、アリサは涙を流した。
痛みも感じない、悲しみも感じない。感じているのに、それを誰か別のものだと頭が訴えている。
男の強欲、暴虐の支配に身を委ねることしか、できない。
心臓の鼓動が、ゆっくりと閉じていく。音が小さくなって、脈が少なくなっていく。
心の星が一つずつ消えていって、籠に閉じ込められた小鳥が長い間空を見上げるように、真四角の夜空が遠くなる。
身体が冷えてきた。寒い。寒い。温かいものが欲しい。温かいベッドが欲しい。温かい人が欲しい。
仮初の慰めすら与えられない今、閉ざされた視界の向こうで、すずかが微笑んでいるような気がした。
今、そっちに行くから。もう少しだけ待ってて……

ぴくり。
「え、ま、まさか……ちょ、ちょっと待って、お願い、待ってぇ!!」
肉棒の動きが変わって、アリサは嫌な予感を全身に走らせた。
ついさっき、口の中で感じた、射精の前兆。
他の人より少しだけ早いけど、生理は来た。つまり、それは。
「いや、いやぁ……赤ちゃん、できちゃうから……やめて、出さないで、お願い、お願いします……」
いつもの気概は微塵もない。弱々しい懇願が聞き入れられる僅かな可能性に縋って、アリサは憐れみを誘う声を出した。
だが時には、願いも、祈りも、どんな声もがもう届かないということを、すぐに身体で思い知った。
死人に鞭を打つような、激しい抽送。最後に止めの一発とばかり最奥の奥まで怒張が差し込まれると、膨らんで爆発した。
熔けたマグマが子宮に叩き込まれる感覚。中出しされたのだと実感したのは、男の射精が終ってからだった。
「あ……いや、中は……中だけはいやぁ……お願い、抜いて、抜いて下さい……」
枯れきった声を上げても、示し合わせたように誰一人喋ってくれない。
肉棒が引き抜かれて、およそ考え得るありとあらゆる凌辱と悲劇が終った。
口を犯され、秘部を犯され、そしてそのどちらにも、情け容赦のない口内射精、膣内射精。
叶わない願いが、届かない祈りが、いつまでも脳髄を駆け巡って消えやしない。
こんなはずではなかったと後悔を重ねても、全てがもう遅い。
後には戻れない。先にも進めない。
全ての希望が絶たれ、何もかもが狂った世界の中で蠢いている。
誰でもいい、誰か教えて欲しい。
この絶望を覆す方法を。時の歯車を元通りに戻して、もう一度やり直す方法を。
今度こそ、絶対に嘘は吐かない。次こそは、絶対に目を逸らすことはない。
だから、だから、教えて欲しい。本当の道を。進むべきだった、輝かしき明るい未来を。
光のある世界で、すずかに愛の言葉を囁いて、心を通わせて、刹那でもいいからすずかの温もりを感じたい。
一瞬でもいいから。どんなに短い時間でも構わないから。
「えっ……?」
──しかし、そこにあったのは只一つ、絶え間のない無慈悲だけ。
別な男のものと思われる男根ががアリサの失われた処女を突き始めた。
続いて、口にも剛直が捻じ込まれる。
代る代る、口内に吐き出しては入れ替わり、膣中に射精しては入れ替わる。
いつしか尻穴にも挿入が始まり、直腸へ思い切り白濁を流し込まれた。
最初に何人いたのかも分からないし、途中で何人追加されたのかも判然としない。
意識の幕が降りる度にスタンガンで起こされ、何時間も何日も、ずっと輪姦は続いた。
その間、精液以外は何も口にしていない。霞のように総てが混濁して、訳が分からない。
ほんの少しでも抵抗すれば、否、抵抗する素振りだと相手に判断されたら最後、
殴られ、蹴られ、罵られ、刻まれ、スタンガンを弾かれた。
一度、銃声を聞き、鼓膜の調子が寝て起きるまでおかしくなったこともあった。
尻と下腹部に焼きごてを当てられ、周囲が大爆笑していた。きっと、よほど酷い烙印を押されたのだろう。
地獄の業火に焼かれて、熱くて死にそうだったのに、迎えるのは嘲笑と侮蔑ばかり。
衰弱しきって死にそうになった時だけ、わずかばかりの食事を犬食いさせられ、またいつ終るとも知れない凌辱劇が続く。
身体のどこだって、穢されなかった場所はない。
精液を雨のように浴び、滝のように注ぎ込まれ、濁流が膣と子宮を満たし、それでも収まらずにごぽごぽ零れ出た。
アイマスクの向こう側に何があるのかなどということは、どうでもよくなっていった。
最後の願いは、最期の祈りは、誰の精液かも分からない汚汁で、妊娠しないことだけだった。
『どうだ? ファーストキスより先にチンポしゃぶらされて、口ン中に精液出された気分は?』
『初めてだったのに残念だったねぇ。何回中出しされたか覚えてる? 誰の子を孕んでくれるかなぁ?』
何日も経って、久しぶりに聞いたヘッドフォン越しの言葉がそれだった。
それっきり、アリサは記憶するという行為を忘れた。
『ようこそ、エデンへ。ようこそ、狂った楽園へ……』

数週間か数ヶ月かが経って、ようやく解放された時、アリサはゴミを入れるようなポリバケツから見つかった。
春の萌芽が見える、冬の厳しさがようやく緩んで、暖かさが戻ってきた季節のことだった。

***

目が覚めた時、アリサは病院にいた。
親がいて、医者が来て、すずかが来て、全部ぜんぶ思い出して……
それから、もう男という存在に拒絶反応を示すようになった。
男性の医者が来る度に泣き叫んでベッドを揺らし、誰も手がつけられない。
一度だけ拘束衣を着せられたが、不思議なことに力が臨界点を突破して、引き千切れてしまった。
それ以来、病棟の個室で日がな一日空を見上げながら過ごしている。
「すずか……あはは、ダメなんて言わないで。もっと見せてよ、すずかの大事なところ……」
妄想の中では、いつもすずかがいた。
頭の中で、いつも愛する少女は乱れて、喘いで、可愛い姿を見せてくれる。
本人が遊びに来た時、アリサは何でもないように話すが、その実、妄想ですずかを犯していた。
本当なら与えるはずだったファーストキスを、本当なら捧げるはずだった純潔を、心の世界で彼女と交わしていた。
すずかは意図的になのか、それとも医者に言われたからなのか、会話はいつもありきたりで当たり障りのない、
反吐が出そうなほど普通の話ばかりだった。
今だって、すずかに襲い掛かりたくなるのを必死に堪えている。
だのに、少女はあどけない笑みさえ浮かべて、楽しそうにアリサに語りかけるのだ。
──そんなことじゃなくて、もっとイイことしましょ?
日に日に、すずかを犯したい衝動が強くなっているようだ。すずかを目の前にして、アリサは静かに深い呼吸を繰り返す。
……だが、静寂は破られた。
「アリサちゃん、注射の時間だよ?」
「えっ? あぁっ、いやぁっ、来ないで、来ないでぇっ! お願い、酷いことしないで、何でもするから、来ないで、来ないでぇ……」
抵抗が悪いことではないと知ると、狂ったように慈悲を求めた。そしてその度に、医者も看護師も女の人がやってきた。
もう、父親の姿も見れないし、声も聞けない。
すずかと母親以外の人間は、押し並べて面会を拒絶した。汚れ穢れた姿など、誰にも見せたくなかった。
それに、一つだけ、医者が見落としていたことがある。あまりの異常性に、まだ気がついていないだけなのだろう。
「おぇっ……うぇぇっ、げっ、げぷっ……」
「アリサちゃん? アリサちゃん、大丈夫!?」
一日に一度、酷ければ数度、吐き気が襲ってきて洗面器に胆汁と胃液、さっきまで食べていたものを全てぶち撒ける。
これが凌辱の後遺症だと、誰もが思っているのだ。それは間違いと呼ぶには過酷に過ぎて、誰も認めたがらないだけ。
簡単な検査で、容易に分かると思う。ちょっと精密に調べれば、それだけで片が付くとも考えられる。
でも、アリサは口に出すことがどこまでも憚られ、またすずかも気付かなかった。
──これは単なる吐き気ではない。九分九厘、ではない、十分間違いなく、悪阻だ。
アリサの胎が目立ち始めるのも、そう遠い出来事ではないだろう。
誰の子だろう。いつ母親になってしまうのだろう。その重さに、どうやって耐えていけばいいのだろう。
ああ、ここにガラスの破片が一つでもあったなら。窓が開けられたなら。紐の一本でもあれば。洗剤と入浴剤でもいい。
注射にカリウムが入らないか、モルヒネが入らないか、いつも気にしているが、そんな気配はない。
いっそのこと全部忘れてしまいたいのに。どうせなら死んでしまえば良かったのに。
すずかとの関係。大切なものを一つ残らず奪われ、無残に踏みにじられた後に、アリサは思い残すことなどない。
精々、凌辱と蹂躙に関わった全ての人間を殺してしまいたいだけだ。
ただ、そんなことをしても無くしたものは帰ってこない。それだけがアリサを苦しめ続けていた。

そして今日も、アリサは遠い空を見上げる。
さざ波のように終り無く訪れる後悔の渦は、どこで避ければ良かったのか。
本当の楽園はどこにあったのか。歪み狂った、捻じ曲がる悪魔の住処を避けて通るには、どの道が良かったのか。
「EDEN」。禁断の実を喰らって追い出された古の理想郷に、彼らはいた。
未だに誰一人逮捕どころか、指名手配すらされていない。
確かにアリサは呪われたのだ。人生の総てを奪われた。もう、生きていく目標も、生きている価値もない。
砕け折れた翼はもう二度と広げられない。高い空へと飛び立つことは、もう二度とできない。
人を呪うサイト、EDEN。まだあるのかどうか、それは分からない。ただ、一つだけ言えることがある。
「噂は全部本当で、あたしは何も見ちゃいけなかったんだわ……」

──真っ赤なお鼻のトナカイさんは、いつもみんなの笑いもの──

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