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──Welcome to EDEN. (楽園へようこそ)

***

「お名前は?」
「高町……ヴィヴィオです」
「おいくつ?」
「10歳です……」

ヴィヴィオがビデオカメラに向かって笑いかけている。
硬い表情は崩れることがなく、緊張を隠すことができていない。
だが、それで撮影側の男たちは満足のようだった。

「それじゃ、早速だけど『ママの代り』をしてもらおうかな」
「は、はい」
ザンクトヒルデ学院の制服に身を包んだヴィヴィオが、静かにスカートをたくし上げる。
チラリと、白い下着が現れた。ヴィヴィオは尚もスカートを持ち上げていくと、
飾り気のないショーツが、カメラにまじまじと映り出された。
レンズがじっくりとズームしていく。まるで、凝視すれば透けて見えるとでも言わんばかりに。
「じゃあ、パンツの上から触ってみて」
ヴィヴィオは無言で応える。
ショーツにゆっくりと触れると、「ひぅっ」と鳴いて身体をのけぞらせた。
突然の刺激に身体が慣れず、ビクリと腰を震わせる。
「そうそう。おっぱいも弄るんだよ」
言われるがままに、胸をさわさわと撫でる。
カーディガンの生地からでは、どこからが乳房のラインなのかも分からない。
幼い身体を自ら性的に慰める痴態を、カメラは余さず撮っていった。
「うんうん。そしたら、制服の前、はだけてみようか」

始まりは、2ヶ月ほど前に遡る──

***

高町なのはが緊急召喚を受けた。
大規模次元災害が発生したので、現地人を救助すべしとの命令。
なのはは訓練生の中から選りすぐりの5人を従えて、すぐに出発した。
だが、そこで事故は起きた。
5人のうちの1人が不用意に爆発物に触れ、意識不明の重体に陥ったのだ。
それはなのはが撃墜された時よりも遥かに酷く、復帰がどうのという以前に命が危なかった。
彼は今も、生死の境目を彷徨い続けている。

なのはには、すぐさま監督責任が追及されることになった。
ちょうどその頃、上層部にはなのはを良く思わない面々が何人かいて、
これを機になのはを失墜させようと企んだ。
会議で「懲戒免職も已む無し」という論調に場が包まれた時、一人の青年将校が進み出た。
「まあまあ、ミッドを救った英雄様じゃないですか。世論が許しませんよ?
その代り、面白い計画があるのですが……」

中身だけを聞けば単純なものだった。
なのはから一時的にヴィヴィオの親権を切り離し、矯正施設で教育させようというものだ。
「重大すぎるミスを犯した張本人ですからね。クビかどっちかと聞かれれば素直に頷くでしょう。
高町にも立場ってモノがあるし、管理局を追われて行き着く先は極めて限られている」
何も永遠の別れじゃないんですから、と強調すると、上の顔は疑問符に満ちた。
「で、それが何になるというのだね?」
「そりゃもちろん、『我らがエース・オブ・エース』を強請るネタにするんですよ。
本人は絶対堕ちないでしょうが、娘なら簡単でしょう?」
加虐を存分に含んだ笑みを浮かべると、会議場は彼の意図に気付いたようだった。
「この一件、私に任せて頂けませんか?」

満場一致で拍手が沸き起こったのには、なのは──はやて側の人間も混じっていた。
最上層の利権構造に食い込むための協力。
人の意思とは、あまりにも脆いものだった。
「あぁ、当然ですが『生活の様子』をフィルムに収めようと思います。
愛する娘さんがどんな暮らしをしていたのか、母親としては気になるところでしょうからねえ……」
ニヤリと笑った彼の口の端からは、悪意そのものが漏れ出していた。

***

そうして『矯正施設』なる場所に送られたヴィヴィオの生活は、泥濘を極めた。
僅かに一畳半の部屋。そのうち和式のトイレが半畳で、残りは何もない。
天井は異様に低くて、大人なら始終屈まなければならない程だ。
その片隅にはカメラ。ヴィヴィオを観察しているのはいわずもがなだった。
内側から大量のボルトで止められたダクトが一つあるが、当然脱出の可能性はゼロ。
窓はなく、明かりは裸電球が一つ、常に薄暗いまま灯り続けている。
空調はやや高めに設定され頭がボーっとする一方で、常に同じ光を与える電球は時間の感覚を失くしていく。
「出して、出してよぉーっ!」
何度もドアを叩き、泣き叫んだが、出してくれるどころか人間の姿すら見かけなかった。
三方が真白な壁に囲まれ、残った唯一の出口であるドアもまた白く、鍵は閂か何か、
とにかく小学生に開けられる代物ではなかった。

食事もパサパサと味気なく、常に飢えと渇きの中にあった。
郵便受けのような場所から出てくる盆は器と一体化したタイプで、箸一本載っていない。
手掴みで食べるしかなかった。
味噌汁が入った汁椀だけは別だったが、これもまた鎖に繋がれている。
徹底した管理ぶりだった。
何度となく『郵便受け』から手を伸ばしてみたが、どうしても床のペタペタとした感覚以外の何かを触ることはなかった。
それが終ると、盆を回収される。一度それを拒否したら、唯一の灯りを消されてしまった。
半狂乱になって叫び続けても許してくれず、泣き疲れて眠り、そして再び目覚めた頃、やっと裸電球が復活した。
のっぺらぼう、ひたすらに何もない時間を過ごさなければならない苦痛に、
ヴィヴィオは何度も悲鳴を上げ、身体を掻き毟った。
風呂にすら入れない。何時かも分からない。
食事の回数を数えるのは諦めた。数えるための手段すらない。

そして5日目を迎えた頃、自身に変化が生まれた。
夢か現実か分からない。音もない、太陽もない、食事のメニューは全て同じ。
どこが現実で、どこが現実でないのか、もう区別がつかない。
出してくれと懇願するのも、もう止めた。だって、誰も取り合ってすらくれないから。
最初の2日は我慢に我慢を重ねていたが、カメラの存在すらどうでも良くなった。
「ママ、助けて……」
その代り、母親に助けを求めた。
だが、肝心の本人は仕事上の大きなミスで自宅謹慎。
ヴィヴィオがこんな生活をしているとは露ほども知らないだろうから、心配することはあれど危機感はない。
まさに八方塞がり、どうすることもできなかった。
もしもここから出ることができるのならば、何でもやろうという気が、芽生え始めていた。
皮脂がべたついて髪が額に張りつく。鬱陶しさと時間感覚のなさが、ヴィヴィオの間で揺れていた。

そこから、5日ほどが経過しただろうか。
もう、ヴィヴィオは衰弱を極めていた。
いや、実のところ食事は栄養だけはまともに考えているようで、身体こそは健全なのだが、
意識の海は絶対に思考を許さないほど憔悴しきっていた。
なのはの顔すらおぼろげで、そもそも「高町なのは」という人間が実在していたのかということさえ、
ヴィヴィオの脳裏では怪しくなっていた。
「ま、ま……」
呟く声は、助けを求める悲鳴ではなく、もはやうわ言。
自我が保てない。どこかへ溶けだしていく。
透明なビニールの膜が意識にかけられているような気がした。全てがぼうっとして、判然としない。
ココハドコ、ワタシハダレ……

更に何日かが経って、初めて外界の方に変化が現れた。
朝食か昼食か夕食か、どれだか分からないが、
とにかくご飯とサラダを口に入れ、味噌汁を啜ると、急に眠気が訪れた。
眠気なんてものは久しぶりだ。1日がまどろみに支配されていたヴィヴィオに、束の間の安息が訪れた。
そして、次に目を覚ますと、そこはやはり同じ一畳半の手狭な部屋だった。
しかし、1つだけ変わったことがある。壁に掛けられた液晶テレビだ。
今は何も映っておらず真暗なままだったが、ヴィヴィオはそれだけの小さな変化でも飛び上がって喜んだ。
「私、現実にいる……生きてるんだ!」
……というのも、儚い望みだった。
何度かの食事──10回か? 20回か? 分からない──を経ても、スクリーンには何も出なかった。
ひょっとして寝ている間に何か放映されているんじゃないかと徹夜を敢行してみたが、無駄だった。
逆に体調を崩し、しばらく臥せることになってしまった。
それでも、救助の手は来ないどころか、アリの子一匹現れなかった。
一瞬走った期待はじわじわと裏切られ、落胆と絶望を一層深いものにした。
何もない、誰もいない、助けて、誰か助けて……

『んあぁっ!』
ビクッ、とヴィヴィオは驚いて画面を凝視した。
今日が何日かどころか、今年が何年なのかさえも曖昧になってからのことだった。
久しぶりに現れる映像に狂喜の色を浮かべる。だが、そこにあったのは通常のフィルムではなかった。
『ひゃぁっ! あああぁっ……だめっ、そんなとこぐりぐりしちゃだめぇっ……』
制服をはだけている女の子だ。どこの制服かは知らないけれど、少女はヴィヴィオと同い年に見える。
四つん這いになって、顔をカメラ側に向けている。
桜色になった胸の先端は露になっており、スカートの陰に隠れて下半身はよく見えない。
すると、カメラが移動して足の方へと移動していった。
太ももにはリモコンのようなものがテープで貼り付けてある。
足の付け根──女の子の一番大事な場所に、毒々しく赤い、棒状の何かが突き刺さっていた。
コロリと少女が仰向けに寝転がされる。それによって、より秘部がアップで映される。
太もものリモコンから延びたコードが、赤い棒の上で終っている。
スポイトか? とにかく、何かを吸い出すような器具のようだった。
『だめっ、そんな、クリトリスばっかり……いやあああああああっ!』
画面の中で少女が啼く。
ヴィヴィオは、そんな名前も知らない少女の姿を見ているうちに、身体が熱くなってきた。
「んっ……」
おかしい。空調が乱れたことなんて一度もないのに、熱い。熱すぎる。
「どうしちゃったの、私……」
少女は一見泣き叫んでいるようにも見えるが、一方でとても気持ち良いように見える。
ヴィヴィオには、そのギャップが不思議でならなかった。
『ラスタちゃん、クリトリス気持ちいい?』
『気持ちっ、よすぎてっ……クリトリス変に、変になっちゃう……いやっ、やあああっ』
ヴィィィィィン、とくぐもった振動音が聞こえる。
どうやら、スポイトがバイブレーションしているようだった。
「はぁ、はぁ……」
ヴィヴィオの顔が上気していく。意識の全てを削ぎ落とされた世界が、どんどん上書きされていく。
「んんっ」
ついに、ヴィヴィオは画面の中の少女と同じ行動を取ることを決意した。
理由なぞ特にはない。極限まで監禁された感情は、五感の全てが他からの指令に従うようになっていた。
「はぁっ、はぁっ……んんっ」
身体の熱がどんどん篭り、じんじんとした疼きが下腹部に溜まっていく。
この痛痒を取り除く方法は、恐らく1つ。
画面の向こうにいる少女と、同じ場所を同じように触ればいいのだ。
「きゃぁ……っ」
ふに、とショーツに触れると、ビクリと身体が震えた。
味わったこともない感覚に、ヴィヴィオは戸惑いを隠せない。
「ちょっと、気持ちよかった……?」
もう一度。
「きゃうっ」
コリコリとしたものが感じられた。そんなもの、この身体にあっただろうか?
上気した頭でショーツを脱ぎ去ると、そこはしっとりと濡れていた。
「なに、これ……?」
お漏らしした訳でもないのにやたらとぬるぬるしていて、ぴたぴたと触ってみると、それは糸を引いた。
ぷつり、と切れた瞬間、まるでシンクロするように少女の喘ぎが響く。
『もっとっ……もっとクリトリス苛めて下さいっ……たくさん弄って、いっぱいイかせてぇ……』
どうやら少女は、スリットの一番上にある豆粒のことを指しているようだった。
じわり、と疼きがにじむ感触は、ここから湧き上がってくるらしい。
恐る恐る、指先で軽く触れてみる。
その瞬間、電流が脳天まで駆け上がった。
「ひゃぁっ!」
甘い。甘くて、痺れて、心地いい。
も、もう一度……
「ひゃぅっ……ひぁっ」
同じように、電流が走った。今度は鋭さよりもむしろ、足が痺れるような感覚が勝っている。
本能がそうさせたのか、画面の少女がそうされていたからなのかは分からない。
けれど、気付いたら、スリットからあふれるぬるぬるした粘液を、クリトリスに擦り付けていた。
「あっ……ああああぁっ!」
ビクン、ビクン、と身体が跳ねる。
疼きが一塊になって、目の裏側にスパークを作った。
視界が七色に染まり、世界が暗転していく。
『あぁっ、はあああっ……』
最後に聞こえたのは、少女の漏らす嬌声だった。

翌日──寝て起きたら『次の日』と呼ぶことにした──ヴィヴィオが目を覚ますと、そこはいつもの牢獄だった。
テレビにも何も映っていない。
昨日のことがまるで嘘みたいに静かで、幻覚かと感じられる。
でも、そうじゃないと信じて、ヴィヴィオはドアを叩いた。
「ねえ、誰かいないの?」
僅かな希望が復活した。何度もドアを叩いて、助けを求める。
だが、誰も来なかった。体力に限界を覚えてへたれ込むと、
その途端に食事がやってきた。だが、相変わらず運んできた人間の気配はしない。
今までの経過から考えて、機械が自動的に配膳しているのだろうと当りをつけた。
助けるも何も、ドアの向こうには何もないのかもしれない。
「……ん?」
ふと盆に目を落とすと、今までとは明らかに違う兆候があった。
もしかすると、昨日のことは本当だったのかも……?
「うっ……変な匂い……」
サラダにかけられたドレッシングが別なものになっている。
以前は塩と油と酢を混ぜただけの代物だったが、今度は白濁としたものだ。
サラダを食べてみると、強烈な青臭さが鼻を駆け抜けた。
それでも、生きるためには食べ続けなければいけない。
いつまでも鳴れることのない空腹に抗うことは、まったくできなかった。
「はぐっ、あぐっ……んくっ」
味噌汁の中にも、同じような白濁が浮いていた。
かき混ぜるものが指ぐらいしかないので、そのまま飲む。
食事が終った頃、ヴィヴィオは身体の異変を感じた。
「何だろう? 熱い……」
ほんのりと、ポカポカする温かさが全身を覆う。
それはすぐに、夢うつつの彼方にあった記憶を呼び覚ました。
「やっぱりあれ、夢じゃなかったんだ」
ジンジンとした疼きが喉にせり上がってきて、思わず声が漏れる。
驚いたことに、昨日少女が喘いだ声と殆ど同質だった。
「私……どうなっちゃったの?」
不安を抱えたまま、独り過ごすヴィヴィオ。
答えは誰からも与えられない。

それからまた、のっぺらぼうな日々を送っていった。
一度だけあったはずの映像はもはやウンともスンとも言わなくなり、
食事に混ざる白濁の粘液は、まるで初日からずっとそうであったかのような既視感に襲われる。
玄米飯と、味噌汁と、サラダ。毎日が味気ないものばかりで、刺激も変化もない。
意識に再び舞い降りてきた分厚いヴェールは、ありとあらゆる意欲を奪い去るのに十分だった。
昼か夜か、などといった問題はとっくに超越している。季節がどこにあるのかさえ、もう分からないのだ。
ただ三つ、食欲と睡眠欲、そして食事の後に訪れる絶え間ない疼きだけが、ヴィヴィオを支配していた。
心臓の鼓動が唯一の音楽。チラつく電灯の灯りが唯一の映画。
たった一畳半の部屋でできる運動といえば、腕立て伏せやスクワット程度のもの。
それすらも億劫で、そもそも身体を動かすという発想が頭から沸いてこなかった。
精神はとっくに限界を突破している。一日中何もすることなく臥せっていることが多くなった。
自分がここに来た意味も、理由も、もうどうでもいい。
思考すること自体、不可能もいいところだった。
食事をし、盆が片付けられると、果たしていつ食事を取ったのかどうか、分からなくなる。
5分も掛からない。そもそも、1分がどれだけの尺で進んでいるのかも分からない。
「ママ……?」
なのはの姿が見え、手を伸ばしてみるが、伸ばせば伸ばすほどに遠ざかっていく。
「ママ……ママぁ……」
ハッ、と気付くことはむしろ稀。ハッキリとした意識が見えるのは、全くないといっていい。
一日中、母親の姿を追い続けることもあった。
寝ているのか、起きているのか、そもそも「起きている状態」とはどんなものだったか。
ヴィヴィオはそれすらも忘れていった。

(続)


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