ブログ
──ここは現実? それとも、悪い夢?──

続く数日、ヴィヴィオは水気の多い食事を摂らされた――本当に栄養はギリギリだ、飢餓の苦痛には逆らえない――後、
同じように手術台のような椅子に拘束され、淫核に激しい凌辱を受けた。
強制的に発情する薬を飲まされ、相手の思うがままに焦らされたり、無理矢理イかされたり、
その度にメアリーから「淫乱ですね、そんなにすぐ達してしまうなんて」と、あくまで無表情に評してくるのだ。
昨日だったか、それとも一昨日だったか、はたまた今日だったか、
体力が完全に尽き果てて気を失うまで、焦らし責めに見舞われたこともあった。
絶頂は一時間に一度。そんな勝手な取り決めで、逆に言えば一時間ずっと媚薬漬けにされたまま、
卑猥な懇願を繰り返させられるのだ。発情薬のひと塗りは、精神を空の彼方まで吹き飛ばされそうだった。
意志もなく、慈悲もなく、ひたすら無機物のごとく振舞うメアリーと、その右手である触手。
薬によって過敏になった身体でなければ、そもそも二度、三度と連続で達することなんてない。
頭がピンク色の妄想でだけ埋め尽くされ、本気で止めてくれと懇願しようとしたが、
何故かその時ばかりチューブ触手が口の中に入り込んで、いつまでも舌を弄んでいたから、それも叶わなかった。
憐れみを乞うような、媚びた瞳と声だけが、カルマーに供されることを許された映像だった。

それから初めて目が覚めた時、一体何時間経っていたのか分からなくなっていた。
冷たい檻の中で拘束から解き放たれ、病院着のようなものを着せられていた。
人っ子いない。機械の静かな音があちこちに反響しているだけだ。
薄暗い照明の中で少女が見たものは、一枚の姿見。
誰かが置き忘れたのか、それとも何なのか、檻のすぐ外で無造作に投げ出されていた。
何故あるのか? 何故ヴィヴィオを向いているのか?
どんな結論にせよ、ヴィヴィオの思考は混濁を極めて、霞のかかった頭では分からなかった。
地獄の機械に踊らされていた時にはなかったはずの鏡を見て、
光に照らされた自分自身の顔を見て、ヴィヴィオは我が目を疑った。
「え? これが、私……なの?」
落ち窪んだ目。光を失いかけた、暗い瞳。
綺麗だったはずの金髪は鈍い色に変わり、反比例して身体が丸みを帯びている。
分からない程度だが、もしかして胸も膨らんでいるのかもしれない。
試しに服を脱いで調べてみると、この施設に入る前までにはなかったはずのラインがあった。
そういえば、生理が始まっていたことを思い出した。思い出せたことが奇跡みたいだった。

胸と下腹部とをさわさわ撫でてみる。
名も知らぬ男達の精液は残らず胃の方に下っていったから、妊娠しているはずもない。
だが、急に気分が悪くなってきて、ヴィヴィオは髪を振り乱した。
手を突いて床にうずくまろうとして──何かが頭に当たって、跳ね返った。
初めての現象を不思議に感じて、頭を上げると、そこには、
「開いてる……?」
あれほどの厳重体勢で人を監禁していたはずの鉄檻が、どういう訳か開いていた。
ゆらゆらと動く鉄格子に誘われて、ヴィヴィオは一歩外に出た。
何も起きない。警報も鳴らないし、カルマーも駆けつけてこない。
メアリーさえいない。もう一度辺りを見回すと、ヴィヴィオを監視していたはずのカメラが撤去されていた。
罠か? それとも、チャンスか?
ヴィヴィオは今までになく素早い動きで、気配を探った。
動く者はいない。多分だが、息を潜めている者もいない。
ドアは閉ざされていたが、そこに耳をつけてみた。足音もないし、その他の音もしない。

チャンスだ!!

ドアの鍵は開いていた。そっと外部の様子を伺って、ヴィヴィオは滑るように部屋を出る。
出てから、そこが見たこともない通路であることを知った。
目を隠されていたり、失神していたり、今まで目を開けたまま部屋と部屋の間を往復したことがないのだった。
闇雲に歩くよりは、何かヒントがあった方が……
一つ目の分かれ道まで来た時、ヴィヴィオの背中を後押しする物を見つけた。
地図だ。今いるのは地下四階。地上に出るルートは、エレベーターと階段。
エレベーターは、ここからすぐのところにある。
一方、階段は遠い。しかもいくつも部屋があって、鉢合わせしないとも限らない。
「……階段で行こう」
エレベーターには、何しろ逃げ場がないのだ。すぐ上の階で誰かに捕まってしまうかもしれない。
ヴィヴィオは地図を頭に叩き込むと、エレベーターとは逆方向に向かって駆け出した。
ただ、既に頭を働かせる能力が極端に低下していて、回復するのに相応の時間と環境が必要だというのに、
この時のヴィヴィオには気がつく術もなかった。

「――だから、多分接続を並列にした方がいい」
「あっ、そうか。そういや設置する極を間違えてたな――」
人の声だ。背後から聞こえてくる。
ヴィヴィオはパッと手近な通路へ反射的に逃げ込むと、凹んだドア部分にぴったり身体を押しつけた。
男性二人と思われる足音と笑い声はやがて遠ざかり、そうしてどこかの部屋に吸い込まれていった。
「……」
僅かだが、また別の男が迫ってくる音がした。リノリウムを滑る、独特の鋭い音。
だが、まだ遠い。ヴィヴィオは意を決して、誰と鉢あうやも知れぬ通路をひた走った。
いくつかの通路を過ぎ、人の笑い声なんかを慎重にかいくぐってしばらく来ると、ヴィヴィオはようやく気付いた。
これだけの緊張と集中をもって、地図が頭に入っていない。ありえない、『普通』なら決してありえなかった。
「私……どうなっちゃうんだろう」
度重なる凌辱と調教で、すっかり精神活動に支障をきたしてしまった。
その癖、性感も含めて感覚だけは無駄に研ぎ澄まされているのだから最早笑うしかない。
目を隠された状態で隅々までまさぐれ、一番感じるポイントを見つけられる、身体中の触覚。
ゴロゴロとした肉棒をしゃぶらされる時の、舌と頬の粘膜。男たちの見下した笑い。
視覚が覆われることが多い分、聴覚もまた鋭敏になっていた。
足音が明後日の方向へ遠ざかっていったのを確かめると、ヴィヴィオはまた走り出した。
裸足だったのが逆に僥幸だ。自分自身はほとんど音を立てることなく進むことができる。

遂に階段の前に辿り着いた時、何か嫌な気配を背後に感じた。
電光石火のスピードで階段の影に隠れ、顔などは出さずに音だけで様子を伺う。
予感は当たり、すぐ傍の部屋からカルマーと何人かの軍人が出てきた。
当然のようにエレベーターに乗るものだと思っていて、案の定彼らはその方向に歩き出した。
緊張を崩さず、しかし危機が去ったことに、ヴィヴィオは小さな安堵を吐いた。
が、カルマーは突然くるりと踵を返すと、突如階段へと向かってきた。
「……今日は階段で行こうか。たまには運動もしないとな」
「了解」
何という気紛れであろうか、明日か昨日であったら良かったのに。まずいことになってきた。
ヴィヴィオは全速力で階段を駆け上がった。
一階、また一階と上がるごとに足が重くなり、首筋に信じられない量の汗をかいていた。
恐怖ですくみそうになる足を、必死に叱咤激励して動かす。まるでホラー映画だ。
ようやく着いた「一階」の文字。安堵よりも先に焦燥が働き、一刻も早くドアを開けようと鉄扉に手を掛けて――

ピクリとも動かなかった。

「どこへ行こうというんだい、我らが親愛なる聖王陛下」
階下から、カルマーの朗らかな声。ガチャン、と無慈悲な鍵の音が響いて、踊り場の向こうに彼は姿を現した。
咄嗟に、ヴィヴィオの足は上に向かった。二階、或いは三階。もっと上かもしれないが、そこからなら逃げ出せるかも……
が、鍵の音はむしろ二階を、更にその上を全部閉ざしたものだった。
迫りくる恐怖が、ヴィヴィオの口から悲鳴を漏らしかけた。
それを必死に飲み込むと、宛て処も意味もなく、ただ捕まる最後の一瞬を延ばしたいがために、ヴィヴィオはまた足を速めた。
けれど、それも屋上まで行けば終ること。
上に行く階段は尽き果て、扉は固く閉ざされたまま冷たく立ち塞がっている。
全てを知った上で、尚相手に焦燥しか与えない歩調で昇ってきたカルマーは、遂にヴィヴィオと視線を交えた。
恐怖に負けてぺたんと座り込み、這って逃げようと喘いだ。
「いいねえ、いいねえ。そのモルモットみたいに怯えた顔。
これからどんな酷い仕打ちがあるのか、考えただけでも恐ろしい、そんな顔。
私は大好きだよ、君の表情。まったく退屈しない」
余裕すら見せた様子で、カルマーは最上階までゆっくりと一段一段を踏みしめてきた。
ヴィヴィオはもはや片隅に追い詰められ、手探りで逃げ場所を探していた。
もちろん、コンクリートの塊に人間が入る隙間などない。
いよいよ肉薄したカルマーは手を挙げ、ヴィヴィオが何もできずに硬直すると、
彼は殴ったり、手を掴むどころか、まったく不思議な顔をされた。
「そういえば、君はこんなところで何をしていたんだ?」

本気で首を傾げる様子に、ヴィヴィオは果たして彼が演技なのか、それとも違うのか、計りかねた。
「抜け出してイタズラをするには盛りの年頃だからね、私は君がどこにいようと特に不思議には思わないが……」
ちょっと肩をすくめて、カルマーは疑問を口にした。
ヴィヴィオはこの場を何とか穏便に逃れようと、そして願わくはうまいことすり抜けられないかと狙った。
「えっと、あの、その……鍵が、開いてたから」
「開いていた? そうか、あの時──」
第一声は正直に話した。まさか、『こじ開けました』などと嘘を言っても仕方がない。
カルマーの心象を害したら最後、何が起きるか分からないのだから。
「ふむ、なるほど、よく分かったよ。流石、君に最も相応しい回答だ」
彼は目を細めた。まるで娘の心境を悟った父親のようで、ヴィヴィオは嘔吐感にも似た腸の捩れを感じた。
「つまり」
一度言葉を区切ったカルマーは、微妙な間を深呼吸で埋めて、続けざまに言った。
「つまり、鍵が開いてたから、外に出て探検してみようと思った。そうだよね? まさか、逃げ出そうだなんて思ってないよね?」
有無を言わせぬ、強めの口調。ヴィヴィオにはその真意が理解を計りかねたが、とにかく頷いておくことにした。
「は、はい……」
蚊の鳴くような、か細い声。覇気も誇りも、全て失ってしまった。そこへ、彼は少女に畳み掛ける。
「それじゃ、ヴィヴィオ、君も『自分自身』を探検してみようか」

最初、カルマーの言っていることがさっぱり分からなかった。
自分自身を探検? いったいどこを?
具体的な指示を与えられるよりも、意味の不明瞭な圧力の方が、よっぽど恐ろしい。
いつホイッスルが鳴るか分からないマラソンをするようなものだ。
或いは、ここに初めて来た時と同じことを……
終り無き『自己』との向き合いに、昼も夜もなく監禁されたまま耐えろというのだろうか?
恐怖が心の隙間から染み込んできて、立ち上がる気力を失わせかけていた。
カルマーが実物より大きく見えて、その背後に漂っているオーラが、まるで化け物のように見えた。
「君は私の敷地をあちこち駆け回ったんだ。だったら、次はこっちの番だろう?
鬼ごっこは、鬼が交代しなかったら面白くないからね」
カルマーはニヤリと勝者の顔を作った。
最後の一歩まで迫り、もう無慈悲な手が腕を伸ばしきることなく届く場所まで来た。
「今度は、君が鬼だよ、ヴィヴィオ」
ぽん、と彼の両手がヴィヴィオの両肩に置かれた。
触られたところから熔けて、腕が消えてしまいそうな妄覚に襲われた。
同時に、足腰に力が入らなくなり、逃げ出そうとする最後の気力が抜けた。

***

再び檻の中に連れ戻されるのかと思いきや、ここがどんな施設なのか一時忘れるほどの部屋に連れて行かれた。
豪奢なホテルの一室、に見える。
天蓋式のベッドに、高級そうなレースのカーテン。床は次元の海から輸入したらしい、ふかふかのカーペット。
そして、淡い色合いのシャンデリア。
全体的に明るい作りで、ブラインドは下ろされているものの、僅かな太陽光が希望の如く漏れ込んできていた。
見回すところ、落ち着いたと呼ぶにはいささか暗めな照明に照らされた空間に、異質なものは何もない。
そう、強いて言えばヴィヴィオ本人こそが異質な存在だった。
「シャワーを浴びてくるんだ。着替えはその間に用意する」
まるでお姫様のような扱い。訳は分からずとも、とにかく熱い湯が浴びられるのなら大歓迎だ。
ヴィヴィオはカルマーの顔色を伺って、そそくさと脱衣所に引っ込んだ。
その後ろ姿を、じっくりと見定めているカルマーとは、目を合わせず仕舞いだった。

「はあぁ……」
久方ぶりの風呂。身体をどこまでも清潔にできる、唯一の空間。
シャンプーも何もかも、そこそこの品を使っている。
嘘みたいに解放された気分だ。
ボディソープを広げて、汚れを拭い去った。
触手の粘液がもたらしていた滑りを全部洗い落として、清潔な身体を手に入れる。
シャンプーとリンスを使った後は、心なしか髪の艶が戻ってきたように見えた。
鏡を一度、まじまじと覗き込む。髪を一束掬ってみて、目の前に近づけてみた。
確かに、色合いが鮮やかになっている。よもや、ここまでとは。
完全に心を許し、湯船に浸かって疲れを取る。
風呂から上がった後、何が待っているかは分からないが、少なくとも今を精一杯楽しもう。
そう思って深く深く呼吸をし、息を吐き出した。

そこでヴィヴィオは異変に気付いた。
多分、心の緊張を解いていたからこそ気付くことのできた、有り得ない異変。

「何の、臭い?」
生臭く甘い、しかし決して初めてではない、慣れた匂いが鼻をくすぐった。
もう一度息を吸って、吐く。
今度は意識していたせいか、肺から空気を出す時に、鼻腔の奥で確かに感じられる臭みがあった。
どこだろう、すぐ最近必ず嗅いだ記憶があるはずだ。でも……
嫌な予感が頭をかすった。思い出すな、不幸になるぞ。思い出すな――
「あっ……!!」
予感は、無惨にも当たった。さっきから、『吸った』時には感じず、『吐いた』時には感じたその理由が、はっきりと分かった。
……この匂いは、精液だ。
毎日毎日男根から直に飲まされ、もう個々人の特徴すら見え始めてきた、白濁の汚汁。
何億匹と泳ぎ回って、着床を目指す精子を飲み下すのは、
如何に秘部への挿入がないにしろ、おぞましいを通り越して吐き気さえ失う行為だった。
それが、今、確かに鼻の奥から漂ってきた。
幼いまま精液漬けにされ、匂いが染み渡るまで射精され、飲まされ、口内に溜め込まされた。
未だ愛すべき人とのキスさえも交わしたことのない、清いはずの唇が、
先程洗ったにもかかわらず、急激に穢れたものと化した。
ヴィヴィオは洗顔クリームを取り上げると、手のひらから溢れんばかりに乗せて、唇を洗い始めた。
クリームが白濁液に見えて、思わず咽せ込んだ。
次いで、洗口剤を四回も五回も口に突っ込んで、隅々までクチュクチュと液を回した。
精液で同じことをさせられたのを思い出して、ヴィヴィオはケホケホと吐き出した。
これが本当の子種汁だったら、何が起きていたか分からないところだった。
だが、何度洗っても、濯いでも、幻臭にさえ感じられる精の香りは、どうやっても拭えずに終った。
ヴィヴィオはその場にうずくまって、さめざめと泣いた。
身体を弄ばれ、改造されていく恐怖と苦痛が、涙の堤防を越えてしまった。
そして、そんな泣き様をも見透かしたかのようなタイミングで、バスルームの扉がノックされた。
「準備ができました、どうぞお上がり下さい」
メアリーの声だ。慇懃無礼な響きを壁に床にこだまさせて、彼女は足音もなく去っていった。
後には、シャワーの勢い良くほとばしる清廉なリズムだけが刻まれ続けていた。
湯気のくゆる視界に、救いもなければヒントさえない。
逃げ場所などないと悟ったヴィヴィオはゆらりと立ち上がり、そっとシャワーを止めた。
残ったのは換気扇の音。低いうなりの中で再び鏡の中を覗き込むと、
そこには、瞳から光の消えた、スラム街の売春少女みたいな女の子が一人、映っていた。

ただ違うのは、身体の中に誇りを持てる血が通っていることと、左右で異なる瞳を持っていること。
最後に、愛すべき母親が健在で、きっとヴィヴィオが帰るのを心待ちにしていてくれるのだろうということ。
きっとそれだけで、その他には何も違いなどはないのだ。
ヴィヴィオはバスルームから上がると、至極事務的にタオルを手に取った。

(続)

次へ   前へ   小説ページへ

動画 アダルト動画 ライブチャット